福岡地方裁判所 昭和45年(行ウ)38号 判決 1974年1月24日
原告 九州勧業株式会社
被告 博多税務署長
訴訟代理人 岡崎真喜次 外五名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担する。
事実
第一、当事者双方の求める裁判
一 原告
(一) 被告が原告に対し昭和四二年一二月二二日付でなした原告の昭和三九年一〇月一日から昭和四〇年九月三〇日に至る事業年度の法人税額等の更正処分中、所得金額一七八万二、八七七円を超える部分を取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二、被告
主文と同旨の判決。
第二、当事者双方の主張
一、請求の原因
(一) 原告は、昭和四〇年一一月二九日被告に対し昭和三九年一〇月一日から昭和四〇年九月三〇日に至る事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の所得金額を一七八万二、八七七円、法人税額を五五万二、六〇〇円とする納税申告をしたが、被告は昭和四二年一二月二二日付で原告の本件事業年度の所得金額を一億五、〇六四万四、八七七円、法人税額を六、一〇四万四、五〇〇円とする旨の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。そこで、原告は、福岡国税局長に対し審査の請求をしたが、右請求に対しては昭和四五年四月二四日付で本件更正処分のうち、その一部を取消し、本件事業年度の所得金額を一億五、〇六一万五七七円、法人税額を六、一〇三万三〇〇円とする裁決がなされ、右裁決は同月二五日原告に通知された。
(二) しかし、原告の本件事業年度の所得金額は、前記申告所得金額であつて、本件更正処分は違法である。
(三) よつて、原告は、本件更正処分中、所得金額一七八万二、八七七円を超える部分の取消しを求める。
二、被告の請求原因に対する答弁と主張
(一) 請求原因(一)の事実は認め、同(二)、(三)は争う。本件事業年度の原告の所得金額は、後に述べるように原告主張の額にとどまらない。
(二) 原告は、本件事業年度内である昭和四〇年七月二三日、訴外九州製油株式会社(以下「訴外会社」という。)より清算による残余財産分配金として受取つた一億四、八八六万二、〇〇〇円(以下「本件分配金」という。)のうち、原告が訴外会社の株式を取得するのに要した金額三万四、三〇〇円を控除した残額一億四、八八二万七、七〇〇円を後記の理由により益金に算入したうえ所得金額を算出すべきであるのに、原告は、本件分配金を益金に算入せずに所得金額と法人税額を算出して申告した。
(三) 本件分配金を益金に算入すべき理由
1 まず、訴外会社は、大正五年八月二五日に解散した清算中の会社であるが、原告は、訴外会社の昭和四〇年六月二五日の臨時株主総会の決議に基づき、同年七月二三日本件分配金の分配を受けたものである。
2 ところで、本件事業年度に適用される昭和四〇年三月三一日法律三四号法人税法(以下「昭和四〇年法人税法」という。)によれば、内国法人の課税所得につき「各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を」課するものとし(五条)、各事業年度の所得に対する法人税の課税標準を「各事業年度の所得の金額」としている(二一条)。
そして、各事業年度の所得の金額は、「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」によつて計算し(二二条一項)、益金の額に算入すべき金額は「別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」としている(二二条二項)。
したがつて、右法人税法の規定によれば、当該事業年度の益金の額に算入すべき収益のなかには、別段の定めがないかぎり、他法人からの受取配当金、解散法人から残余財産の分配として受取つた金銭その他の資産も営業外利益として当然に含まれることになる。
3 しかし、昭和四〇年法人税法は、右別段の定めとして「利益の配当又は剰余金の分配の額」は、益金の額に算入しない旨のいわゆる受取配当の益金不算入を規定し(二三条一項一号)そして「法人の解散により残余財産の分配として交付される金銭その他の資産」は、「利益の配当又は剰余金の分配の額」とみなす旨規定している(二四条一項三号)。
したがつて、受取配当金、解散法人から受取つた残余財産の分配金は、右の規定によつて益金の額に算入されないことになつている。
4 ところが、昭和四〇年法人税法附則五条によれば、「右本則二四条一項三号(解散の場合のみなし配当)の規定は、法人が施行日以後に解散した法人から残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受ける場合について適用し、法人が同日前に解散した法人から残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受ける場合については、なお従前の例による。」と規定しているので、同法の施行日である昭和四〇年四月一日(附則一条)前に解散した法人から受取つた本件分配金については、本則二四条一項三号の適用はなく、従前の例によることとなつている。
5 そこで右従前の例について検討すれば、受取配当金等の益金不算入に関する規定は、昭和二五年法律七二号による改正後の法人税法(以下「昭和二五年法人税法」という。)において設けられたものであり、これが昭和二八年法律一七四号による改正後の法人税法(以下「昭和二八年法人税法」という。)および昭和四〇年法人税法に引き継がれているのであるが、いまこれを昭和四〇年法人税法から遡つて説明すると、その詳細はつぎのとおりである。
(1) 昭和二八年法人税法の規定
昭和二八年法人税法は、その九条の六第一項において、受取配当金の益金不算入を規定し、同条二項二号において法人の解散による残余財産の分配金のみなし配当を規定していたが、同法附則八項は、右九条の六第二項(解散の場合のみなし配当)につき、同法施行日である昭和二八年八月七日(同法附則一項)以後に解散した法人ならびに昭和二五年四月一日から昭和二八年八月六日までに解散した法人で所定の要件に該当する法人から受取つた残余財産の分配金についてのみ適用し、昭和二五年四月一日前に解散した法人から受取つた残余財産の分配金については、なお従前の例によるものと規定していた。
(2) 昭和二五年法人税法の規定
昭年二五年法人税法は、その九条の六第一項によりはじめて受取配当の益金不算入を規定し、同条二項二号により解散による残余財産の分配金のみなし配当を規定した。
しかし、同法附則一二項は、右「九条の六の規定は昭和二五年四月一日前になされた法人の解散又は合併に因り法人が取得した金銭の額及び金銭以外の財産の価額で同条二項の規定により利益の配当又は剰余金の分配に因り受けた金額とみなされるものについては、適用しない。」と規定していた。
すでに指摘したように、昭和二五年法人税法は、はじめて受取配当金の益金不算入ならびに解散による残余財産の分配金のみなし配当を規定したのであるが、右規定は、昭和二五年四月一日前に解散した法人の残余財産の分配金については適用されないことになつているのである。
(3) 前述したように、訴外会社は、大正五年八月二五日解散した会社であるから、訴外会社から原告が受取つた本件分配金については、昭和四〇年法人税法二四条一項三号(解散の場合のみなし配当)の規定の適用はなく、なお従前の例によることとなるが、従前の例についてみるに、昭和二八年法人税法は、その九条の六第二項二号(解散の場合のみなし配当)の規定の適用を排除し、なお従前の例によることとしており、さらに昭和二八年法人税法からみた従前の例である昭和二五年法人税法も、その九条の六第二項二号(解散の場合のみなし配当)の規定の適用を排除しているので、結局、従前の例によれば、本件分配金については益金不算入としての取扱いは受けないこととなる。
6 したがつて、原告の本件事業年度の所得金額の計算にあたり、本件分配金について、経過規定に照らすと別段の定めがないことになるから、所得金額の計算の原則規定である昭和四〇年法人税法二二条二項が適用になり、同項所定の益金を構成するものと取扱うべきこととなるから、本件分配金中原告が訴外会社の株式の取得に要した金額三万四、三〇〇円を控除した残額一億四、八八二万七、七〇〇円を原告の本件事業年度の所得金額に加算した本件更正処分は適法である。
三、被告の右主張(二の(二)、(三))に対する原告の答弁
(一) 被告の主張二の(二)の事実のうち、原告が被告主張の日に訴外会社より清算による残余財産分配金として、被告主張の金額を受領したこと、原告が本件分配金を益金に算入せずに本件事業年度の所得金額を申告したことは認めるがその余は争う。
(二) 同(三)は争う。
本件分配金は、益金に算入すべきでない。
すなわち、昭和四〇年法人税法附則五条によれば、本則二四条一項三号(解散の場合のみなし配当)の規定は、昭和四〇年四月一日前に解散した法人から残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受ける場合については適用はなく、「なお従前の例による」こととなつており、そしてその前の昭和二八年法人税法においても、同法附則八項により、昭和二五年四月一日前に解散した法人から残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受けた場合については、同法九条の六第二項(解散の場合のみなし配当)の規定の適用はなく、「なお従前の例による」ことになつている。
更に昭和二五年法人税法に遡ると、同法附則一二項により、同法九条の六の規定は、昭和二五年四月一日前にされた法人の解散又は合併により法人が取得した金銭以外の財産の価額で同条二項の規定により利益の配当又は剰余金の分配により受けた金額とみなされるものについては適用しない旨規定されている。
しかし、右いずれの附則も、経過規定である性質上、これをもつて課税規定とすることはできない。したがつて、本件分配金を益金に算入するためには、本則において積極的に清算による残余財産の分配金を益金に算入するという規定がなければならないところ、昭和二五年法人税法における解散の場合のみなし配当および右配当金の益金不算入の規定は、右法人税法において初めて設けられた規定であるから、これらに関する規定の存在しなかつた昭和二五年法人税法の前にあつては、「みなし配当」の「益金不算入」の問題は、結局、解散した法人の清算所得分配金を受取る法人株主への課税問題としてこれを取扱うべきである。
しかるに、解散した法人から清算所得分配金を受け取る法人株主に対する課税規定の有無を法人税法のなかで調べてみると、昭和二五年法人税法の前においてもこれを発見することができない。
したがつて、本件分配金については、昭和二五年法人税法の前の法である昭和二三年の法人税法(昭和二五年三月三一日法律七二号による改正前のもの)が適用さるべきこととなるが、同法には法人の解散による残余財産の分配金についての課税規定がないから、結局課税の対象とならないものである。
第三、証拠<省略>
理由
一、争いのない事実
請求の原因(一)の事実と、原告が被告主張の日に訴外会社より解散による残余財産の分配金として、被告主張の金額を受領したことは、いずれも当事者間に争いはない。
二、本件更正処分の適否
そこで、以下被告が増額更正をした理由として主張している点を検討する。
(一) 本件分配金の所得計算上の取扱いについて
本件事業年度に適用される昭和四〇年法人税法によれば、「利益の配当又は剰余金の分配の額」は益金の額に算入しない旨のいわゆる受取配当の益金不算入を規定し(二三条一項一号)、そして、「法人の解散により残余財産の分配として交付される金銭その他の資産」は、「利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす」旨規定している(二四条一項三号)。
ところが、同法附則五条によれば「右本則二四条一項三号(解散の場合のみなし配当)の規定は、法人が施行日以後に解散した法人から残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受ける場合について適用し、法人が同日前に解散した法人から残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受ける場合については、なお従前の例による。」と規定している。
そうすると、前記のとおり本件分配金は、昭和四〇年法人税法の施行日前である大正五年八月二五日に解散した訴外会社から原告に交付されたものであるから、本件分配金については、同法二四条一項三号の適用はなく、従前の例によることとなる。
そこで、右従前の例について考察するに、昭和四〇年三月三一日法律三四号による改正前の法人税法(昭和二八年八月七日法律一七四号による改正後で昭和四〇年三月三一日法律三四号による改正前のもの。)は、その九条の六第一項で受取配当金の益金不算入を規定し、同条二項二号において法人の解散による残余財産の分配金を利益の配当又は剰余金の分配により受けた金額とみなす旨規定していたが、その附則八項において、右九条の六第二項につき、昭和二八年八月七日以後に解散した法人ならびに昭和二五年四月一日から昭和二八年八月六日までに解散した法人で所定の要件に該当する法人から受取つた残余財産分配金についてのみ適用し、昭和二五年四月一日前に解散した法人から受取つた残余財産の分配金については、なお従前の例によるものと規定している。そのため、右従前の例を明らかにするためには更に昭和二八年八月七日法律一七四号による改正前の法人税法(昭和二八年八月七日法律一七四号による改正前のもので昭和二五年三月三一日法律七二号による改正後のもの。)について検討を加えるべきところ、同法では、その九条の六第一項で、利益の配当又は剰余金の分配を受けた場合においては、益金に算入しない旨規定し、同条二項二号により法人の解散により残余財産の分配として受けた金銭等については利益の配当又は剰余金の分配金とみなす旨規定している。また、同法附則一二項は、「九条の六の規定は、昭和二五年四月一日前になされた法人の解散又は合併に因り法人が取得した金銭の額及び金銭以外の財産の価額で同条二項の規定により利益配当又は剰余金の分配に因り受けた金額とみなされるものについては、適用しない。」旨規定している。
そうすると、同法の解釈として、昭和二五年四月一日前にした法人の解散又は合併により法人が取得した金銭の額等は、同法九条一項の所得の計算上、これを益金に算入すべきことは明らかである。
したがって、本件分配金についても、昭和四〇年法人税法附則五条が根拠規定となつて従前の例によることとなるけれども、右にみたように従前の例である法人税法(昭和二八年八月七日法律一七四号による改正前で昭和二五年三月三一日法律七二号による改正後のもの。)が解散の場合のみなし配当を定めた九条の六第二項を同法附則一二項によつて適用を排除している以上、結局所得金額の計算の原則規定である昭和四〇年法人税法二二条二項が適用されて益金を構成するものといわねばならない。
(二) なお、原告は、本件分配金について、昭和四〇年法人税法附則五条に定める従前の例は、昭和二五年三月三一日法律七二号の改正前の法人税法によつて定めるべきであり、同法によれば、法人の解散に伴う残余財産の分配金については課税規定がないので、本件分配金は、益金に算入すべきでなく、結局課税の対象とならない旨主張するけれども、右は原告独自の見解であつて、当裁判所は、右見解を採用しない。
そうだとすると、被告が本件分配金を益金に算入したことに何らの不都合はなく、本件更正処分は適法なものといわねばならない。
三、結論
以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 井野三郎 江口寛志 照屋常信)